大阪ガスネットワーク大阪ガスネットワーク
Daigas Group 大阪ガスグループは、Daigasグループへ。

このページの本文へ移動します。

室田 洋子 氏 室田 洋子 氏 聖徳大学児童学部児童学科(前)教授、兼任講師
「“こころ”を癒す食卓」

専門:発達心理学・臨床心理学(臨床心理士)

“口は心の窓”。拒食や過食や神経性習癖は、心を伝える“ことば”

講演風景写真

 私の専門は、発達心理学と臨床心理学です。これまで、ひとに関わる多くの研究をし、併行して臨床活動も続けております。その中で、不登校やいじめ、非行、ひきこもりの子どもたちのほか、神経性習癖を示すさまざまな子どもたちの問題に応じ、彼らを支えるご家族とも具体的に関わっております。私は食の専門家ではありませんが、逆に専門家でないことで、心理学の視点からかかわりの日常性の問題として食の問題を考えることができるというのが、私の視点だと思います。
 発達心理学と臨床心理学から食の問題を見ますと神経性習癖と食の問題行動は口に関係します。頻繁に爪を噛んだり、拒食、あるいは過食に走る状態です。それは「だめ」といわれてもおさえられない状態になるのです。これらの食に現れる神経性習癖は、学力の高低に関わらず起こります。今日の多くの人たちは、他者に認められる自分を絶えず意識しながら生活しています。気にすることがあると、食に依存する行動をとりやすいと私は考えています。“目は精神の窓”と言いますが、“口は心の窓”です。心が治ってくると、極端な口に関係する困った行動も治ってくるんですね。「おやめなさい」と言っても治らないけども、心に安定が戻ると、そうした問題行動や神経性習癖も消えていくのです。

心理学から考える食事とは。食卓の風景で子どもを取り巻く家族の姿が見える

講演風景写真

 心が豊かになるには、“関わりの力”が必要であると私は考えています。食物をお互いに分けあうと、心が開かれます。そう考えると、食事や食卓は非常に心理学的な場であると言えます。
 本日、ここには学校の先生や保育に関わる方々が多くお集まりということを伺っておりますのであえて、「食事は子どもたちに“させるもの”でしょうか。“するもの”でしょうか」ということを、問いかけたいのです。「分けっこして、一緒に食べよう」。そうした時には“させる”ではなく、“する”食事になっていて、子どもたちは自分の意志で食べています。1歳の幼児でも右手にしっかりスプーンを持って自ら口に運ぶようになれば、自尊心が育っている証拠です。人は道具を使って食べるんだということを、お母さんや兄弟と一緒に食事をすることで学んでいるからなんですね。
 KFD(Kinetic Family Drawing)、動的家族画とも言いますが、「いつもの家族の食卓の様子を絵に描いて」と指示して10分で書いてもらうものです。小学生を中心に実施しましたが、絵の中で子どもたちはメッセージを送ってきます。食卓に大きな影響を与える心理的な要素は4つ挙げられます。1つ目は人間が一定、2つ目は距離が近いということ。3つ目は一定時間を共有するということ。そして4つ目は頻度、繰り返しの作業であるということ。食卓が豊かであるか、そうでないかということが、4つの要素の組み合わせで分かってくるのです。

食卓における人・距離・時間・頻度の4つの要素によって、人間性が形づくられる

講演風景写真

 子どもたちは食卓で家族と食事を通して関わることで、「我が家はこういうものだ」と認識していきます。食事の相手がいて、その中でどのような心のやりとりを交わすかによって、人格の基礎は形成されるのです。でも、今日の社会の中では“相手がいない”食事が相当増えています。“孤・個食”です。
 食卓に大きな影響を与える心理的な要素の1つ目である人の問題ですが、一人で食べる食事が常態化していくと、コミュニケーション能力がガタッと落ちます。つまり、表情から気持ちを察することができない、空気を読めない人になるのです。
 2つ目の要素は距離です。食卓は1メートル前後の近い距離に皆が顔を寄せ合って食べあっています。この近い距離の中では、言語外コミュニケーションが盛んに交わされています。言語によるコミュニケーションは7%で、あとの93%は目線や仕草や態度などの表情言語です。
 3つ目の要素は時間です。食卓が小言の時間になるなど家族の接し方によっては、15分、30分の食事が子どもたちにとって拷問になることもあります。楽しい話題は食卓に人を引きよせます。
 4つ目の要素は頻度。私たちは1日に3回以上食卓に座ります。昨日も明日も来年も、合計すると途方もない頻度です。
 このような意味で、食事がいつも「おいしい」と思える人間関係があること。心が分かち合える食事の意味です。

現代人に不足する、人と関わる力をいかに育むか。その中心に食卓がある

講演風景写真

 子どもたちが描くKFD(Kinetic Family Drawing)で食卓のコミュニケーション充実型は、家族一緒に食卓を囲んで食べているという絵です。そうした構図の絵が、この10〜15年くらいの間でものすごい勢いで減り、力強い筆圧で描いている絵も減ってきています。この間、“個食”が広がっているということです。大事なことは、「子どもたちは家族の中で人間としてのセンスを獲得していく」ということです。人間としてのセンスは、心を込めて自己表現をし、人の話を聞き人の気持ちを汲む力をもつことです。人はこうするものだという考え方や行動の基準を、食卓で得ているのだということです。また、子どもは一緒に料理をすることによっても、ものをよく見ること、大切に使うことを覚えます。
 今日の社会の中では、勉強ができて優秀で有能であることよりも、人と関われることが一番大事なことです。人と分かちあって一緒に食べることは絆を深めます。心は癒されます。つながりを深め心を癒す働きの中核に食卓があります。家族との食卓、そして仲間と食べる食卓、誰かと食べる食卓。ここに、人格の基礎となる心の安定の大きな心理学的な力があると考えています。

TOPページに戻る