管理栄養士、博士(栄養学)。全日本アマチュア野球連盟選手強化部医科学委員。JOC強化スタッフ(硬式野球・医科学スタッフ)。高校球児を中心に、ジュニアアスリートに特化した食事教育・栄養サポートを展開。2004年、春・夏甲子園出場全選手の体組成測定と栄養・食事に関する調査を実施。2007年より法政大学非常勤講師(スポーツ栄養学)。北京オリンピックでは、国立スポーツ科学センター(JISS)スポーツ医学研究部 研究員として、現地食環境調査、JOC強化指定選手の栄養サポートを担当。 |
アスリートはたくさん動きますから、その分、たくさんのエネルギーが必要になります。しかし、一般の方と食事の内容や種類がそう変わるわけでありません。ただ、たくさん運動するので、運動しながら食べていくことが必要です。
よくジュニアの選手に言っているのは「身体側は食べる準備ができているかな?」ということ。腸内環境を整えたり、しっかり噛むことで消化吸収を促したり、体幹部を強化して内蔵をガードするなどの準備をしておくことが大切。また、食事のときにキチンとした姿勢を保つことは、お行儀の面だけでなく、体幹を鍛えるためにも必要なことだと思っています。
アスリートの場合、エネルギー源となる炭水化物を多く摂ります。運動すると体の中の炭水化物(グリコーゲン)が減るため、炭水化物をしっかり摂る必要もあります。国際オリンピック委員会の目安では、体重60kgのアスリートが通常練習期に1回の食事で摂るべき炭水化物の量は、コンビニのおにぎりに換算すると約4個分位になります。
タンパク質も重要です。「粉を溶かして飲むもの」がプロテインだと思っている子どもたちがいますが、プロテイン=タンパク質です。食事で摂るのが基本で、足りない分をプロテインパウダーで補うのは悪いことではないのですが、タンパク質は一回に体に活かせる上限が決まっていますから、成長期の子たちにとって朝ごはんを食べないというのは大変もったいない話です。
もう一つ、注目したい食品がビタミンやミネラル、食物繊維を多く含むフルーツです。
栄養を摂るには「何を食べるか」と「いつ食べるか」が重要です。朝ごはんは、エネルギーの補給や体温の上昇、細胞の材料補給のために必要で、私たちの頭と身体そして心を作ってくれます。タンパク質は一回に摂取できる上限が決まっていますから、成長期の子たちにとって朝ごはんを食べないというのは大変もったいない話です。
2004年に甲子園に出場した高校球児を調査したところ、95%以上が「毎日」または「ほぼ毎日」朝食を摂っていました。しかし、大学日本一になったこともある大学の野球部を調べると、朝食を摂っている選手は3〜4割程度しかいない。明らかに「高校生の時は食べさせられていたのかな?」という印象を受けるわけです。実際、大学生の体格を比較すると、朝食を摂っていない選手の方が1日の食事の摂取量は少なく、それが体重などにも現れています。大学生が朝食を抜いている現状は問題だと思っています。
ご飯とパンにそれぞれ良いところがあると思いますが、毎日ご飯を食べているアスリートは激しい練習をする合宿でも朝食にご飯を食べられる一方、毎日パンを食べている選手はご飯が食べづらいのです。ご飯は水分が含まれているので重量感があるのですね。
ご飯は低脂肪で炭水化物が摂りやすく、粒状ですので血糖値の上がり方が比較的緩やか。丼一杯のご飯と同じ量の炭水化物はロールパンだと約8個、6枚切りの食パンだと約4枚が必要になります。これも2004年に高校球児を調査した結果、朝食がご飯の選手は41%が主菜、副菜を摂っている一方、パンの選手はパンのみになっている割合が高く、朝食にご飯を勧める理由の一つになっています。毎日ご飯でなくても良いのですが、アスリートとして朝からしっかりご飯が食べられる体力をつけてほしいですね。
朝食のメニューとしてお勧めは、具だくさんのスープ類。甲子園に出場した高校野球の監督さんに「宿舎にどんな食事をリクエストされますか?」と尋ねると、一番多かった答えが「朝は汁もの、夜は鍋もの」でした。低脂肪で、冷えた身体を温めたり、乾燥を防ぐというメリットもあります。ご飯やパン、お餅などを入れることもでき、朝に食欲があまりわかないときにもお勧めです。米大リーグのイチロー選手の朝ごはんのメニューとして注目されたカレーも、良いと思います。
朝食に使う食材ですが、まずは野菜について。子どもの頃は味覚が敏感で、野菜の苦味や酸味を「腐っている」と感じる場合もあります。でも、子どもが嫌いだからと言って、メニューから外さないでください。きっかけがあれば、好き嫌いがなくなることもあり、「生のスティック状だとニンジンが食べられた」というような話もよく聞きます。それから、野菜ジュース。足りない野菜を摂る手助けにはなりますが、完全な代わりにはならないのではと思います。色々な種類がありますので、表示をよく見て、分からないことは各メーカーのお客様相談センターに電話して聞いてみてはいかがでしょうか。
魚だったら一匹丸ごと食べられるものが多いですよね。しかし、肉で多くとれる栄養素もありますので、「単純に肉はダメ、魚がいいというわけじゃないんだよ」と子どもたちには話しています。
アスリートへの食育はジュニア期から必要という意味を込めて「食のトレーニングは先手必勝」と言っていますが、朝ごはんは選手の一日の食事の中の「先手必勝」策。食のトレーニングは先手必勝ですが、朝ごはんも先手必勝です。アスリートは朝ごはんを食べないと競技に臨めませんし、一日のエネルギーをしっかり摂るために朝ごはんを食べたチームが勝ちだと思っています。朝、どんなに早くても、しっかり朝ごはんが食べられる、そういうアスリートたちを育てたいですね。今日の話が皆様の朝ごはんを少しでもおいしくするエッセンスになれば、とてもうれしいです。