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大谷 貴美子氏 大谷 貴美子氏 京都府立大学大学院 生命環境科学研究科教授
いただきますで育もう〜食育授業のすすめかた〜

大阪市立大学大学院 生活科学研究科後期博士課程修了(学術博士)。武庫川女子大学、大阪市立大学などでの、食事・調理に関する研究を経て、平成8年10月より京都府立大学に勤務。
現在、視覚情報から見た食べ物のおいしさや、家族の人間関係や子どものこころの発達に、食がどのように関わっているかについて研究している。また、地域の小学校と連携をとりながら、様々な食育の実践活動を実施。地域の食育に関する教育ネットワークの構築につとめている。食事環境を中心とした、幼児期のこころの発達、高齢者のQOL(生活の質)が研究テーマ。効果的な食教育を実践するための新しい実態調査方法を、実践・検証している。
小学生向け食育教材『「いただきます」ではじめよう!なぜ?なに?食育BOOK』の制作にあたり、監修代表を務める。

人の体も心も、食べてきたもので形づくられる

講演風景写真

 最初に、「人の幸も不幸も、口に集中する」。この言葉を、ぜひ皆さまの胸に刻んでいただきたいと思います 。非常に意味深い言葉です。皆さん一人ひとりが、私の講演を聴いていただいた後で、お考えいただけたらと思います。
 私たちの身体は食べ物からつくられていくわけですが、「We are what we eat」という言葉があります。我々は食べたものそのものである、という意味です。仮に人生80年といたしまして、1日3回、365日食べたとして、私たちの一生の食事の回数は約88,000回になります。この回数の食事を赤ちゃんの時から日々、口から摂り入れ、消化吸収し、それを材料として私たちの身体ができあがっていくわけですから、当然、どのような材料を摂り入れるかによって、できあがっていく身体は異なる、ということは想像できるかと思います。どのように食べてきたかによって、できあがっていく心も変わってきます。学校給食を年間約190回と考え、6年間食べたとしても、1,140回です。 12歳までの食事の回数で割りますと、学校給食の食事の占める割合は8.6%、一生に換算しますと、約1%くらいです。学校給食を食育の生きた教材に、といわれていますが、食育のベースは家庭の食事であることは、おわかりいただけるかと思います。

子どもの心を癒すことができる食育は、家庭で行うのが基本

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 食育の課題はたくさんあろうかと思いますが、子どもの心が癒される食というのは基本的には家庭にしかありません。基本的な愛着の形成、自尊感情の形成という意味で、家庭の食事というのは大きな意味を持っていると思います。愛着というのは、どういうことか。何か危機的状況にあった時、確実に守ってもらえるという信頼関係であったり、安心感なんですね。そういうものがないと、子どもたちは、外の世界に羽ばたいていくことができません。「コ食」にもいろいろありますが、「個食」「孤食」「子食」には親がかかわっていない食事、子どもの嗜好が優先される食という意味で共通しています。「関らない食」ということですね。では、なぜ個別食が起こるのか。
 最近の保護者は自分も忙しいし、さまざまなストレスを抱えているので、子どもと関ってトラブルや葛藤を生じることが面倒なんです。こういうことでは、子どもの心の中には自尊感情とか愛着は育ちません。欠食だけでなく、肥満、痩せ、うつ、学力低下等々、こうした背景には、保護者の無関心が非常に大きい。日常生活の中で子どもに対して目を向けるということを、保護者の皆さんに喚起していかないといけません。

学校教育における食育は、しっかりとした価値判断を養ってあげること

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 学校における多くの食育の課題については、昔は家庭で当然行われていたことです。家庭で行われなくなってしまって、学校でやらざるをえない状況があることも事実なのです。大学生をみていても、学生の調理能力も落ちています。具体的な知識が、スキルとつながるような情報を提供し体験させることが、学校教育の中で実施できる食育の課題ではないかと思います。つまり、食のスキル学習。代表的なものは調理技術です。食材を選ぶ技術等もそうですが、テクニカルスキルを家庭科等の実習を通して学ばせてあげる。ライフスキルとしては、意思決定スキル、目標設定スキル、ストレス対応スキル。自分がどのような価値を選択するのかという、価値判断の基準をしっかりと養ってあげる。自分で意思決定できる力を育むということが、学校教育の食育の目的ではないかと思います。食育、食育といいますが、食育というのは、生活者教育、人間教育の一部だと思っています。

地元・京都の食文化を、子どもたちに伝える取組み

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 地元の食文化についてですが、京都には京料理があります。地元で育つ小学生が、京料理の文化にふれる機会がないので、子どもたちに地元の食文化に対して誇りをもってほしいと取り組んだのが最初です。
料理というのは、つくる人がいて、サービスする人がいて、食べる人がいて、それぞれの気持ちが響き合って、おいしさが生まれます。つくる人もプロ、サービスする人もプロですが、子どもたちには「食べるプロになってもらおう」ということでさまざまな取り組みを行ったわけです。
 当初、20時間のプログラムを3年間試行いたしました。事前学習では、おいしさを感じる仕組みや世界と日本の食文化を学び、そして実際に京町家にいって京料理を味わってもらい、しつらえについても学んでもらいました。おもてなしの心に感謝を表す方法として、態度も大切ということで、マナー講座も実施しました。子どもたちは、京料理の秘密はおもてなしの心であると気づいてくれました。
 また、学生がさまざまな大根を使って「目指せ、エコマスター」という授業を、京都市立新町小学校で実施しました。
エコ・クッキングで大根1本、全部使い切る調理実習もやりました。 そして給食の時に、自分たちがつくったものを一緒に食べました。

食育をする側も楽しんで

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 食育は、子どもたちに対して楽しい目標を掲げ、事前学習で気持ちを高めて、本物で応えることが大事です。子ども達が参加して、見て、触れて、体験して、そこで感動することが大事で、それが言葉になり、興味を喚起する。その流れが大事ではないかと思います。心脳体食育、知識を持って心で感じ、体験することが大事。そのためには本物を見て、触れて、食べて、感じて、五感を使って学ぶことが大事ですが、食育を行う側の食の世界、皆さん自身の食の世界を広げていただきたい。義務感だけで食育をせずに、面白がる気持ちを大切にしていただきたい。食育は、地域、家庭、専門家等々の協力がないと、学校だけではできません。地域の力を、うまくとりこんでいくことも大事だと思います。

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