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齊藤 孝氏 齊藤 孝氏 明治大学 文学部教授
からだ育てとコミュニケーション

1960年静岡市生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士課程を経て現職。専門は、教育学、身体論、コミュニケーション技法。2001年に出した『声に出して読みたい日本語』(草思社)がシリーズ260万部のベストセラーになり、日本語ブームをつくった。前文化庁文化審議会国語分科会委員。
NHK教育「にほんごであそぼ」総合指導、TBSテレビ「情報7days ニュースキャスター」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビ出演多数。

日本の伝統である体を基盤にした教育

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 私の専門は「身体論」ですが、今日は「からだ育てとコミュニケーション」ということでお話します。日本には、もともとは禅の伝統があったり、武道があったり、茶道があったりということで、身体を基盤にして人間教育をしてきました。戦争に駆り立てたということでGHQが武道を禁止したということもあり、戦後教育で身体の教育というのは一度否定された面がありました。そのため、日本人自身が、身体の文化の大切さ、伝統文化の大切さを、ちょっと忘れちゃっていたという面があります。それをもう一度取り戻そうということで、そういったことを教えています。

食べながら人と話をすると、体が開いて元気に

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 日本の中でも「食」というものが、今、危機に瀕していまして、私の学生さんでも、すごく食費を切り詰めてしまっている人がいます。切詰めたお金は、ケータイ代にいってしまうのです。そのため簡単にいうと、声が小さい。これは食と関係していて、身体つきがほっそりしている。かつては、足腰がしっかりしていることが前提にありまして「腰腹文化」と僕は呼んでいるんですか、腰と腹がしっかりしている人が、男としてはいいとなっていました。今は男性も腰が細いのがモテる。女性だともっとひどい状態になっています。そのような状況に対して、どうしていくのか。一つはコミュニケーションの要素を食の中に多く取り入れて、食べながら話して、コミュニケーション能力を高めていくということです。
 たとえば、「呼吸が浅いか、深いか」ということを一つの基準にして見ると、おいしいものを食べて、皆でワイワイ騒いでいる時は、身体が開いていて、呼吸が弾んでいる感じなんですね。一人で食べている時は、個食といいますが、だんだんうつむいてきて呼吸が浅くなり、身体も沈んでくるという感じになります。同じ子どもでも、一人で食べている状態と、みんなで楽しく食べている状態の時の身体がまったく違います。食べながら話をすることは、コミュニケーションの自然な形だということを、子ども時代から教えていくのは大事なことです。身体が閉じている、開いているという観点で、皆さんが見ていただくと、違ったものが見えてくるのではないかと思います。

コミュニケーション能力が落ちている日本人

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 和食の弱点というのは、味がちょっと薄すぎて子どもにはインパクトがない。特に中高生男子には。流行の「食べるラー油」をちょっとかけると「これはいける」と言うようになります。大阪の方は、全国平均でいうと、3割増しくらいで声が大きい。身体があたたまっているというか、「食べるラー油」を食べ終わった状態みたいな感じ。町全体にラー油が振りかかっているイメージがあるわけです。商人の土地だから、どんな人でもすぐに仲良くなって、コミュニケーションして商売が成り立つ。商売の本質はコミュニケーションなんですよ。コミュニケーション能力に関しては、中国の人、韓国の人はすごく積極的になっていて、日本人は落ちてきている。大阪は日本の中でも比較的コミュニケーション能力が高いとはいえ、全国的に見ると、日本人は、身体がちょっと引き加減になっています。それをあたためないといけないということです。

不自然なまでのリアクションがコミュニケーション能力を活性化させる

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 今回は、学校の先生が多く参加されているということですので、いくつか子どもたちのコミュニケーション能力を高める授業を紹介します。食というものは元来、盛り上がる話題です。何がおいしいというのは、盛り上がるはず。学校の授業では、4人一組で「自分の好きなものについて、残りの3人に向かって、自分の好きな食べ物のいい点を1分間で3つ上げます。これとこれがいいです、だから皆さんも食べてください」と生徒に1分間話してもらいます。次の人が、「納豆が好きです。皆さんは嫌いだそうですが、納豆は栄養があって、あのネバネバがたまりません」といった説明をします。これはグループを変えれば、いくらでもできます。
 グループの中で相互に好きな食の世界について共有しながら、それ、食べてみますとなっていくことが、よいわけです。この際必ず子どもに教育してほしいのは、「そうそう、へぇ、そうなの」というリアクションを、拍手と一緒に言ってもらうようにします。拍手の出ないところは沈んでいると思ってください。不自然なまでのコミュニケーションを練習させないとだめなのです。自然なコミュニケーションをとるような教育だけでは、日本の子どものコミュニケーション能力は、長期低落傾向にありますので。

料理からアポロ計画まですべては「だんどり」

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 これはプラスαの課題ですが、3分間クッキングみたいなものを生徒に見せて、紙に1〜20の番号をふってある「だんどりシート」をつくっておきます。これは、生徒が箇条書きをするためのものです。そこで、例えば、ブリの照り焼きと大根の映像を流し、その調理のだんどりを全部書いてもらい、発表するようにと指示します。そうすると、子どもたちは、皆必死にやっていました。フライパンに油をひくとか、炒め方をこうするとか、この練習は、料理をするうえでのだんどりを端的に表現できます。料理や家をつくることからアポロ計画まで、すべてはだんどりです。
 だんどりをきちんとしてそれを説明し、メモをすることで記憶して人前で話すということは、仕事のすべて、勉強のすべてです。官僚の仕事も銀行の仕事も、全部同じ。子どもたちには、徹底して両親から料理の仕方を聞いてもらい、テレビで見るなど何でもいいので、料理のだんどりを詳細に書かせて宿題でもこれをやってもらい、子どもたちに説明させるようなことを繰り返していくと、だんだん彼らの頭がよくなってくる。しかも、料理を手伝いたくなる。世界中の面白い食を紹介するという発表を、グループでしていくやり方でも子どもは関心を持つと思います。「スポーツ選手が、こういうものを食べて、すごい」とか、先生が情報を紹介してあげるのもよいでしょう。このような方式で教育的な成果を出していただけると、私のアイディアも無駄にならないということでしょうか。

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