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川島隆太氏 川島隆太氏 東北大学加齢医学研究所 脳機能開発研究分野 教授
脳を育む食育

1959年5月23日千葉県千葉市生まれ。東北大学医学部卒業(1989年)。同大学院医学研究科修了。スウェーデン王国カロリンスカ研究所客員研究員、東北大学助手、講師を経て、同大学教授、医学博士。元文化審議会国語分科会委員。脳のどの部分にどのような機能があるのかを調べる「ブレインイメージング研究」の日本における第一人者。

子ども時代にしっかりと朝食をとったかどうかがその後の人生の質を左右

講演風景写真

 全国の学力調査を文部科学省が去年まで実施していたのですが、平成20年度のデータを見ると、子どもの朝食の頻度が減るにしたがって成績は下がっていることがわかります。私たちは農林水産省と一緒に朝食の影響が「その後の人生にどう影響するか」「子どもの頃の朝食習慣が大人になってどういう影響を与えているか」「大学入試との関係」についてアンケート調査を行いました。
 「ほぼ毎日朝食をとっていた」人たちは第一希望の大学に50%以上が入学しています。ところがそうでない人たちは30%以上が第三志望以下の大学にしか入れていない。この差は統計的に特徴的な差があります。もちろん食べてなくても第一志望に入る子もいますが、確率論として「食べているか、食べてないか」で希望の大学に入れるかどうかがわかります。学力が低かったので大学入試でうまくいかないのはあたりまえだから、大学で挽回すればいいじゃないかということで就職との関係を調べました。「ほぼ毎日朝食をとっていた」人たちの6割は第一志望の会社なり、団体に就職できています。そうでなかった人たちの3割は第三志望以下のところにしか就職できていません。これも統計的に有意な差があります。子どもの頃の朝食習慣は就職にまで影響しているのです。
 大人になってからも、「毎日食べていた」人たちは全体傾向として仕事のやる気がある、ストレスがあまりない傾向が高く、規則正しい生活を送りバランスの取れた金銭感覚を持っている傾向が高いのです。子どもの頃、朝食習慣のなかった人は大人になった時に、仕事のやる気がなくストレスを感じやすい傾向があり、生活も規則正しくないということが見えてきました。それが結果として、生涯年収まで影響を与えるというところまで統計でわかっています。「毎日食べていた」人たちは生涯年収が高い方により多くかたまっているのに対して、そうでなかった人たちは生涯年収の低い方にかたまっています。子どもの頃、朝食をきちっととるかどうかは、大人になった時の生活の質に直結していることが、文部科学省と農水省との研究ではっきりと見えてきたのです。

炭水化物だけじゃなく栄養的にバランスのとれた朝食を

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 今は「早寝、早起き、朝御飯」という啓蒙活動が極めてよく浸透していて、どこの調査でも概ね、どの学年であっても、9割の子どもたちが毎日、朝食を食べていることがわかっています。ただ、朝御飯でおかずをきちっととっているかという観点から解析をすると、なんと4、5割の子どもはおかずをとっていません。大阪でも調査していますが、バランスのよい朝食をとっている子どもたちは多くて6、7割しかいない。私たちは、これらの子どもたちの食事を調べるだけではなく、高度な働きをしているすべての脳の領域の働きを調べる心理学テストを子どもたちにやってもらっています。驚いたことにすべての脳の働き方のテストのスコアが、朝食のおかずの数と正の相関関係にありました。おかずが多ければ多いほど、すべての脳の機能が高い。少なければ少ないほどすべての脳の機能が低いのです。おかずの数が子どもの脳発達と正の相関関係を持つことが、データで出てきました。また、米食の方が効果も高いというデータもあります。
 ぜひ、皆様方の食育の地域での活動で、朝御飯を大事にしないといけないということを、上手に地域に戻って伝えてください。皆様方の口を通して、できるだけシンプルにこの事実を世の中に流してもらいたいというのが私の願いです。「朝飯きちっと食わないとバカになる」、これが一番効くと思っています。

子どもとよりよい関係を築くためには親子で食事を作ることが効果的

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 続いて、一緒に食事をつくる方の食育の話をします。実際に親子に調理をしてもらうと、子どもたちの脳の発達を助けるというデータはすでに取れています。ここでは、親子の関係性を強めるための道具として親子の調理体験が使えるのではないかと考えました。親子での調理というのは楽しいものなので、一石二鳥で親子関係を変えることに使えるのではないかと考えます。幼稚園生と保護者に協力していただき、ある実験を行いました。親子で週に一度ホットケーキをつくっただけで子育てストレスがグンと下がったのです。食育は、子育て中の保護者の皆さんのストレスを減らすために使えるんです。子どもたちにも、発達心理学でいう、子どもの「緊急避難基地」ができました。
 家庭を出て集団の中に入ると、子どもたちは極度のストレスにさらされますが、緊急避難基地を持っている子どもたちはストレス下の環境においてもさまざまな活動ができます。緊急避難基地がない子どもたちは、オドオドとして受動的に環境の中にのまれていくことがわかっています。緊急避難基地とは何か。どんなに嫌なこと、悲しいこと、辛いことが外であっても、家に帰って家族の人にギュッとしてもらえたら、それで安心という感覚です。これを緊急避難基地と言います。この感覚が、今の希薄な親子関係の中ではできてないのではないかというのが私たちの不安です。今の大学生が、幸せかどうかのアンケート調査を世界標準でとりました。子どもの頃、おやつづくりの体験とか、お手伝いの体験があったか。食に関する親子の触れ合いがあったかを思い出してもらい、その頻度が多かった子と、そうでなかった子との間に今の幸せ度の間に差があるかどうかを調べようという研究を行いました。その結果、おやつづくりの経験がある子どもたちの方が心の健康度の項目において幸せであるというデータが出てきました。そういう環境で育った子どもたちは大学生になった時、自分はより幸せだと感じているということが見えたわけです。

きちんとした食事をとって食事は自分で作るという意識が大切

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 今日の話のまとめとしては、バランスのよい朝御飯を食べ、科学的データから米の朝御飯を食べる方がいいらしいということ。また、親子で調理をする効果・効能については、明らかに調理をすることは脳を活性化させ、その結果として脳の働きをよくすることが分かりました。もう一つは親子が調理をすることも重要だということです。子どもたちの食育を考えると、家庭科では朝御飯をきちっと自分でつくるだけの最低限の知識と技術を身につけさせる。その技術を身につけるところから家庭科教育がなくてはいけいのではないかと考えています。

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