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佐藤雅子氏 佐藤雅子氏 千葉大学教育学部附属小学校教諭
感じることで食を豊かに〜フランスの『味覚教育』を取り入れた食育の進め方〜

平成19年度 千葉県長期研修生として、1年間大学で学ぶ。この間、フランスの「味覚教育研修ツアー」を経験。
「味覚教育創設者」、ジャック・ピュイゼ博士からの直接指導を仰ぐとともに、フランスの学校を視察。
平成20年度には、千葉県小学校家庭科、平成21年度には千葉県中学校技術・家庭科(家庭分野)の中央伝達講習で、「味覚教育」を取り入れた食の教育の伝達を行う。平成21年度より、千葉大学大学院に在籍し、「味覚教育」を取り入れた家庭科の教育の研究を行う。平成22年度より、千葉大学教育学部附属小学校に家庭科専科として着任し現在に至る。

味覚に対する感覚が希薄になりつつある日本の若者

講演風景写真

 本日は、2007年に私が1年間、千葉県の長期研修生としてフランスの「味覚教育」を学ばせていただいたことをもとにお話をしたいと思います。内容は、食育について、フランスの「味覚教育」とは、どういうことがフランスでなされているのか、日本の小中学校での授業紹介、そして、食をつくる力について話したいと思います。
 日本の現在の食の現状は、この2008年の新聞記事のように、食べることに関心を持たなくなった人のことがあげられていました。これは東京聖栄大学が行った調査ですが、甘味、苦味など、味を識別する調査で、親世代や高齢者よりも若者の味覚が鈍ってきているということが結果として示されました。どうしたら心身の健康を増進する健全な食生活が実践できるのか。私はフランスの「味覚教育」を取り入れることが家庭科に役立つのではないかと考えています。
 フランスの味覚教育は1970年にフランスで始まったものです。1990年からフランス全土で味覚週間が行われるようになりました。味覚週間は毎年10月、1週間かけて行われているものです。味覚週間ではレストランや企業が食育を行ったり、学校での食育の取り組みを発表したりする機会になっています。

五感で感じることを学ぶフランスの味覚教育

講演風景写真

 フランスでも共働きの家庭が増え、外食産業が進出し、健康面の問題が浮上してきています。経済面の問題も上がってきており、私が参加したセミナーでは、テーマは肥満と食べることの関係、経済と食生活の関連と、医療面、経済面と食育の関連についてでした。私は、味覚教育創設者のジャック・ピュイゼ先生からディプロマ(修了書)をいただいた経験をもとに、今、学校で授業を進めているところです。フランスの「味覚教育」では、食事をどのようにとらえているか。フランスでは食べるという言葉を表すのに2種類の言葉があるそうです。一つは生命維持のための『ノリチュア』。もう一つが感動を得る『アリメン』。『アリメン』は日本語では、『味わう』という言葉が近いと思いますが、「「味覚教育」」はそれを重視している教育のことです。
 人は、食べ物を食べるとき、たくさんの五感を活用しています。食べる前に視覚を使い、「食べた経験があるのか」「食べられるものなのか」を判断します。また、においでも「おいしそうか」「食べ頃か」などを判断しています。これら五感を活用して、人は一瞬で食べるかどうかを決定している訳です。そして、食べ物が口の中にある時、一つは香りを感じています。香りは鼻からだけでなく口の中からも感じます。鼻をつまんで何かを食べて、放した瞬間に香りを感じると思います。この他、科学的な刺激、炭酸とかなのシュワッという感覚。触感、歯ごたえ、舌触りとか。噛む時の音、もちろん味、温度。私たちは、食べている時にこのような五感を使って食べ物のおいしさを感じています。また飲み込んだ後も食べ物の余韻が残っています。知識も食べ物にとって一つの要素になります。大阪のたこ焼きと聞くと「あ、おいしそうだな」につながっています。生産地、スタイルがすべて一緒になって喜びとなります。このように視覚や嗅覚などの情報を含め、『おいしい』『まずい』ということを判断しているということが脳科学の分野でも解明されつつあるということです。
フランスではこの「味覚教育」が12のプログラムで学べるようになっています。フランスでは調理に関しては体験ととらえていました。日本の家庭科は調理、つくる力を身につけますが、調理をする力を身につけることを学校教育の中で取り入れている国は少ないです。私が研修で訪れたフランスの2つの幼稚園では、「五感を使って感じる」ことを園児に体験させていました。

日本の小・中学校の家庭科に取り入れた「味覚教育」の効果

講演風景写真

 日本での、家庭科における食教育カリキュラムを紹介します。これは、小学校5年生の食に関する年間指導計画ですが、この部分に味覚体験を取り入れてきました。「味覚教育」は食べ物のおいしさを感じる、味わうことから始まるのですが、おいしさは食品を調理して生み出されるものです。最初に五感を使って味わう、次に調理、炊飯学習などを通じて、「調理によって食品がおいしくなる、つくることでおいしく変化する」ということを子どもたちが実感できたのではないかと思っています。「家で調理の回数が増えた」という子どもが86%。ごはんを炊く、味噌汁をつくる、ゆでることができると答えた子どもが100%でした。私にとってもうれしい結果です。子どもが自分で調理ができるという自信を持ったという結果になっていると思います。また、表現力の向上にも役立っています。中学校では、2年生にこの味覚体験を取り入れました。事後のアンケートからは、生徒たちがおいしさを五感で感じるようになったことはもちろんですが、友だちの考えを認めあったり、より深く考えるようになったり、何よりも生活に役立つと生徒たち自身が実感してくれていたことが読み取れました。

調理して食べることを通じて日本の子どもたちにも豊かな食生活を

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 最後に食をつくる力について、今の自分の思いを話させていただきたいと思います。調理の際、子どもたちはたくさん迷います。迷いの例として、この青菜がほうれん草か小松菜か、複数株でも一株の時とゆで方が一緒か、などです。そして、その迷いを解決することによって自信を得ることができます。この時間を家庭科の学習で確保することが実はとても大切なのではないかと思っています。調理をしているときの子どもたちは実に真剣です。自分がつくるということを意識して、自分でつくりあげたものを食べる喜びがそこにはあります。
 「皆で一緒に食べると食べ物がおいしく感じられました」「これからは食べるということへのありがたみをもって食事をしたいし、自分も家族につくっておいしく食べてもらいたいなと思いました」と、いう感想が、小学校6年生の食の学習の最後で聞かれました。このような思いを持ってもらうこと、食をつくる力を子どもたちが身につけること、それが小学校や中学校の家庭科でできることであるし、食を豊かにしてくことにつながるのではないかと思っています

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