東京都出身。慶應義塾大学文学部フランス文学専攻卒。編集者勤務を経て、1986年香川栄養専門学校栄養士科卒。1988年、女子栄養大学大学院栄養学研究科栄養学専攻修士課程修了。女子栄養大学助手、専任講師、助教授を経て、2005年より女子栄養大学・大学院教授(食生態学研究室)、現在に至る。 |
大阪ガスでは食育セミナーに積極的に取り組んでおられますが、社会全体の大きな動きとしては、平成17年の食育基本法の制定は大きなことだったと思います。自分にあった食の、何を、どれだけ食べるかを知り、それが実現できているかを判断する力。それらをイラストで示そうということで、世界各国でつくられているものを総称して「フードガイド」といいます。食品群というものを訳してフードグループとすると、それは分類だけみたいなイメージになってしまいます。ガイドということになると導くという意味があるので、何を、どう食べたらいいかの方向性をつけるという意味で「フードガイド」という言葉が使われるわけです。
日本のフードガイドとして国で策定されたものが「食事バランスガイド」になります。平成17年、厚生労働省と農林水産省で合同の検討委員会をつくって策定したもので、このコマの形は皆様もごらんになっているかと思います。今日はこのフードガイドをどういうふうに活用していくかについて主にお話をしたいと思います。
食卓で食べるときの状態、つまり料理でどれだけ食べたらいいかを示したのが、「食事バランスガイド」です。小学校では5年生から家庭科などで3色分類や6つの基礎食品を学習しますが、それらは食材料で示された教材です。私たちの大学は埼玉県坂戸市にありますが、ここで小中学校における食育プログラムを市の教育委員会と一緒に制作し実施しています。平成19年から小学校5年生で実施を始めました。その中で、「食事バランスガイド」をどう使っているかということをお話したいと思います。
まず道徳で食への感謝の気持ちを学習し、それから食物の3色分類を復習します。家庭科で給食に関して自由に意見をいってもらい、メニューの中に入ってもいるものをリストアップし、それを3色分類に分け3色分類と食品の関係の復習をします。その後、「食事バランスガイド」を説明するといった流れで実施し、子どもたちが自分の1日の献立を考えるという作業に移ります。給食で1食の組み合わせとして、「何を食べるのか」という組み合わせをしっかり学び、そして「1日に食べるもの」ということで「食事バランスガイド」に誘導します。それらを、すべて学校教育の現場の先生が実施しています。
また、小学校5年生は8時間の授業ですが、その後、6年生は時間が減って家庭科2時間、保健で1時間。中学1年で特別活動1時間、中学2年で1時間。家庭科の2時間は3色と6つの基礎食品と「食事バランスガイド」のつながりを復習してもらっています。保健の授業では、生活習慣病の予防の内容を入れて体との関係づけを指導しています。6年生では、保護者向けのお知らせも行っています。家庭が変わらないと子どもたちも変わらないからです。
以上は、5年生から中2までのプログラムですが、20歳になった時に食育のことを覚えているかの調査も予定しています。このように坂戸市では、何を、どう食べたらいいかを知り、それを自分ができているかを判断できる力を、しっかり身につけるということでの食育プログラムを行っています。
世界各国のフードガイドはどうなっているのでしょうか。アメリカは2005年から「マイピラミッド」というフードガイドがあって運動の重要性が説かれていますが、アメリカは昨年、このピラミッドをやめました。お皿型、プレート型に変えています。お皿の中を半分に分けて、半分のうちに果物と野菜。そして残りの半分の多めが穀物、残りがタンパク質となっています。オーストラリアもプレート型です。ピラミッド型はアメリカが実施後各国で増えましたが、中に入っている食べ物は地域の食物です。形も、五重の塔、煮込む時の鍋の形なども使われています。
食品群の分類については、5つなどの分類が多く、開発途上国では3色分類と同様の3つが多いです。覚えやすくて、分かりやすいからです。日本の「食事バランスガイド」は1日の適量として示していますが、どう食べるかを考えることからすると、1食の方がわかりすいことがあります。
私の指導教員である足立己幸先生を中心に考案された、「3・1・2弁当箱法」というのがあります。お弁当箱のサイズを摂取したいエネルギー量と同じにする、これが第一の基本です。そして、お弁当箱の面積比で、主食3、主菜が1、副菜が2ということで「3・1・2弁当箱法」といいます。「食事バランスガイド」の逆ピラミッドでいうと、主食が多くて、次が副菜2と、主菜1でと合致しています。学校の現場でも、給食を「3・1・2弁当箱法」で弁当箱に詰めてみるという授業もやっています。そのとき、子どもたちは「給食って、バランスいいんだ」と、改めて思うわけです
自分の体やライフスタイルにあった食事をとる力に関してですが、私たちの研究室は「食事づくり力」という表現を使います。自分にあった食事を構想し、実現する力。まず「何を食べよう」とか「こんなご飯にしよう」とイメージできる力と、それを実現していく力の2つからなると考えられています。
「食事づくり力」に関しては、大学院生で調理学の助教の先生が、大学に入学してきたばかりの学生を対象にグループインタビューを実施しました。すると、調理を誉めてもらったとか母親以外も調理していたなど調理体験の違いが、調理が得意か、不得意かに関連していることが分かりました。
また、「つくる体験」と同時に食事のイメージを描くことから考えると「食べる体験」も重要だと思います。楽しい食事づくり体験と食べる体験の積み重ねが、子どもの食の力を育む鍵になるのです。 「食べるのが楽しい」ということも、とても大事なポイントだと思います。そうしたことを、子どもを中心に地域社会の中で、学校、家庭、それ以外の組織が関わりあいながら、子どもが、どう食べていくかということを進めていく。マスメディアとかインターネットの影響も大きいため、メディアリテラシーという言葉は一般的に使われますが、自分で適切に判断する力「食のメディアリテラシー」の力をつけるべきでしょう。そうしたことも含めて、子どもたちに食の力をつけていく食育を、皆様もさまざまな立場から進めていただければと思います。