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土井 善晴 氏 土井 善晴 氏  料理研究家、フードプロデューサ―、早稲田大学文化構想学部非常勤講師、立命館大学客員研究員 「家のご飯が育む未来」毎日食べる和食の作り方

1957年大阪府出身。家庭料理の第一人者であった土井 勝の次男。スイス・フランスでフランス料理を、大阪の「味吉兆」で日本料理を修業後、土井 勝料理学校勤務。1992年に「土井 善晴おいしいもの研究所」を設立。TV番組や講演の出演、各分野で家庭料理や調理の指導に尽力、レストランや日本料理店のプロデュース等、多彩な活動を行なっている。早稲田大学「食の文化研究会」主宰、テレビ朝日「おかずのクッキング」の講師25年目、NHK「きょうの料理」の講師26年目をむかえる。著書に「日本のお米、日本のご飯」「おむすびにんじゃのおいしいごはん」「春夏秋冬ほしかったのはこんな味 土井家のおいしいもん」「土井 善晴のレシピ100:料理がわかれば楽しくなる、おいしくなる」ほか多数の料理本を出版。

心より数値で「おいしい」をはかる現代

講演風景写真

 私はプロの料理家ですが、それ以前に「家庭料理の先生」としてお母さんや主婦の味方でありたいと思っています。お母さんは自分の都合より子どもや家族を優先して料理をされていますが、お金をもらうわけではありません。その存在が尊いんです。昨今、和食が世界無形文化遺産になったことが話題になっていますが、家族大勢で和食を食べている人たちに「世界無形文化遺産を今、まさに皆さんが摂られているんですよ!」と声を大にして伝えたいですね。
 今は食べるには便利な社会です。ただ、感覚より科学的なものが重要視され、誰もが無意識に影響されています。例えば多少、変な味がしても賞味期限内だったら食べる。感覚は危険を感じているのに数値を信頼してしまう。
 また、最近では多くのレシピが無料で多く出回っていますが、シンプルな料理ほど教える側の個性や立場が付け足され、お料理がどんどん難しいものになっていっている気がします。本来、料理はもっと簡単なもの。そして失敗してもいいんです。食事は絶対おいしくなければならないという風潮がありますが、子どもたちが家の食事でおいしい理由、おいしくない理由を知ることこそ大事なんです。「おいしい!初物や!」「これはあかん、いたんでる」など、親が理由をさりげなく伝えることで子どもは覚えます。
 そして台所の音を聞かせてあげてください。上手・下手ではなく、とにかく一生懸命、料理をしている音。そのことで子どもは無限大の体験ができるのですから。

和食は総合のバランス美。 五感を信じておいしさを判断する

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 和食で「味覚に優れている」というのは、甘い・辛いとか単純なことではなく、五感の総合バランスが良いということです。嗅覚は刺激的な臭いに引かれるものですが、素材一つひとつの味を大切にする和食では、他のものの臭いを妨げるので嫌われます。
 「熱いものは熱く、冷たいものは冷たく」ということも大事です。和食は0度から100度まで楽しめます。聴覚も料理を作る過程でとても大事です。調理の時、いい音が鳴るというのは適温の証拠でもあります。
 料理のプロセスが総合的に「気持ちいい」「違和感が無い」、そしてどこを取っても「きれい」ということが、いい結果をもたらします。この心地よさは瞬間的に五感で感じるものですよね。食べる時、自己流でもいいから自分の身体の変化に聞き耳をたて考えてみる。その感覚を信じることが重要なんです。
 食事をつくるのは大変でも、そのプロセスで「きれい」と思うことがたくさんあります。心を開いていたら、お料理の中にいっぱい「きれいなぁ」「ええなぁ」が見つかります。この「きれい」ということが、和食には絶対必要なんです。安いお茶碗でも、きちっと洗うことで美しくなるし、安い野菜も丁寧にお料理することで御馳走になります。
 「区別する」ことも大事です。例えばコーヒーとお茶を飲むカップは別にする。場を区別する、道具を区別する。一つひとつを区別して味わうことが「きれい」につながります。

料理をする人と食べる人の情報交換が文化をつくる

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 人類の進化の過程で火を利用して食べ物を食べやすくする工夫ができてから、顎が小さくなり現在の人間の姿になったといいます。つまり、人間が料理するようになったのではなく、料理が人間の柱となったわけです。
 人間と類人猿の違いは、人間には「子ども期」と「青年期」があるということです。特に子ども期は母親がおっぱいを飲ませ、離乳食をつくってあげないと食べられません。
 言い方を変えれば、全部、母親に食べることを任せる時期です。今は子どもが自分で考えなければいけない教育傾向にありますが、元来、子どもは「食べる」という経験のみを素直にしていればよかった、ということを頭においておくべきだと思います。
 また、毎日の家庭料理は命を育むものです。料理をする人が民族や風土、食文化、季節などの条件の中で、全方向的に情報を集めて料理をする。そして、食べる人は台所の音を聞きながら無意識に情報を得ている。この料理をする人と食べる人、互いの情報交換の量はとても大きいものです。お母さんが忙しい時、ご近所でご飯を食べさせてもらった経験がある人も多いと思いますが、そこには信頼関係があります。そして、なによりもこれらが無償であること。これが料理をする人が文化をつくることになるのです。
 食生活が人生の裏付けや厚みに関わるのはもちろん、善悪の判断や大きな決断など、ものを考える原点を養うこともできるのではないかと考えています。

毎日の食事のつくり方”一汁一菜”〜日本人は米と味噌があればいい!〜

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 日本人の基本は、ご飯と味噌汁を中心とした”一汁一菜”だと考えています。約3200年も我々の暮らしと共にあったと言われている米は、炊きたての匂いがするだけでも幸せになりますね。米をおいしく炊くポイントは、一度洗ってザルに上げて40分くらい置いてから炊くこと。そして、炊いたご飯はすぐおひつに移すこと。おひつの冷やご飯はおいしいものです。
 味噌汁は味噌自体が発酵食品で野菜や少量のお肉も入るので、一杯で必要な栄養をほとんど摂ることができます。味噌の殺菌力の素晴らしさ、血圧への影響のなさなど、味噌が健康にいいことを証明する研究データも出ています。丁寧にダシを取らないといけないという誤解がありますが、おいしい味噌を使えばダシではなく水であっても、十分おいしい味噌汁が出来上がります。味噌汁とご飯を毎日食べても飽きないのは、自然のものだからでしょう。自然の風景を見て飽きることがないのと同じです。
 最近はお料理がアイデア大会のようになっていますが、日常では必要以上に工夫する必要はありません。工夫すると食べる人も「変わったことしてはるね」など、料理をした人の話をしなければなりません。それより、季節の素材をシンプルに調理して「きれいに整える」こと、それだけでお互いが楽しめ、心に余裕がでます。

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