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伊藤浩明 先生 伊藤浩明 先生(あいち小児保健医療総合センター内科部長 兼 中央検査部長、名古屋大学医学部(小児科)招へい教員、NPO法人アレルギー支援ネットワーク副理事長、日本アレルギー学会指導医) 「園・学校における食物アレルギー対応について」

1986年名古屋大学医学部卒業。名古屋大学医学部小児科、社会保険中京病院小児科、常滑市民病院小児科等の勤務をへて、1996年テキサス大学ガルベストン校小児病院へ渡米。帰国後、国立名古屋病院小児科等に勤務され、2001年10月よりあいち小児保健医療総合センターアレルギー科医長にご就任。現在に至る。日本小児科学会、日本アレルギー学会、日本小児アレルギー学会等の役員も務める。主な著書(共著)に「食物アレルギーの基礎と対応」、「食物アレルギーハンドブック2014 - 子どもの食に関わる方々へ -」他、多数のアレルギーに関する本を出版。

アレルギーのしくみについて

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 平成25年度文部科学省が行った調査によると、即時型アレルギーと把握されているお子さんが4.5%とかなり多いのが解ります。それを踏まえて今日は、重症のアレルギーを持つお子さんたちに、いかに合理的に対応していくかをメインテーマにお話ししていきたいと思います。
 まずはアレルギーについて簡単に説明をしましょう。アレルギーの原因になる食べ物を「アレルゲン」といいます。それに対し「IgE抗体」というのが体の中にでき、この二つが反応してヒスタミンという物質が出てアレルギー症状が起きます。しかも即時型アレルギーはその言葉通り、時間経過がとても速く、アレルゲンになるものを食べてから15分以内に症状が出始めます。
 では、「アレルゲン」とは具体的に何なのか?食べ物には炭水化物、ビタミン、タンパク質…いろいろ栄養成分がありますが、この中でタンパク質がアレルゲンになります。ただ食べ物の中には何十種類ものタンパク質が存在し、その中のいくつかに対しIgE抗体が働きます。このタンパク質がどこに存在するのか、どんな性質なのかで食べ物のアレルゲンの性質が決まります。
 例えば昔「卵アレルギーなら鶏肉もダメ」と言われたものですが、卵の中に含まれるタンパク質は鶏肉には含まれていないのでアレルゲンは別。乳糖も時々問題になりますが、乳糖は糖質ですので、そのものはアレルゲンになりません。中にほんのわずか牛乳のタンパク質が残っている可能性がある程度です。ピーナッツ・アレルギーもアーモンドは大丈夫という人が多いです。このように、タンパク質がアレルゲンだと理解すると、イメージしやすいと思います。

アレルギーは「食べて出る症状」を知るのが大切

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 これらの基礎知識をふまえ、大事なのはお子さんがアレルギーをもっているかを正しく把握すること。それには「食べたら症状が出ることを確認する」。当たり前のようで、これがアレルギー診断の一番の決め手になります。
 アレルギー診断の基本「IgE抗体があるかどうか」は病院で血液検査をすれば簡単にわかります。ただ、食べたら症状が出るかどうかは食べてみなければわかりません。「怖くて食べさせたことがない」という保護者の方は多いですが、それでは本当にアレルギーかどうか分かっていない、ということになります。
 「実はアレルギーだったかもしれない。それが治ったか確認したい」という人も多く、病院では「食物経口負荷試験」を行います。これはアレルゲンの食べ物を直接食べて症状が出るかを確認するという原始的な診断方法です。
 アナフィラキシー(いくつかの臓器の症状が同時多発的に急激に起き、危険を伴うこと)が起こった時の準備をした上で、確認しながら順番に食べてもらい少しずつ量を増やす…を繰り返します。その中で起こるアレルギー症状は、最初に皮膚症状が出る子もいれば、咳だけやお腹が痛くなって吐くだけの子もいます。この「症状の順番」を知っておくことは、実はとても重要です。お子さんが給食を食べて咳をし始めても、むせた、もしくは風邪と思いがちです。しかし後から別のアレルギー症状に進むケースもあると認識しておく。これはアレルギーの早期対応の大事なポイントになります。

対応の重要な目安「生活管理指導表」

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 給食では、一人ひとりのアレルギー情報を確実に把握することがとても重要となります。
 まずは量です。病院では現在どの量まで食べられるかをきちんと診断した上で、その量に慣れ、少しずつ増やしていくアレルギー治療を行いますが、「給食」という場面はまた別です。家で十分安全に食べているところから「安全域」を見込んで、食べるとしてもごくわずかのところに止めておく方がいいでしょう。
 それから、原因の多様化です。最近は果物アレルギーのお子さんが増えていますが、原因は花粉症です。花粉と果物は同じ植物ですので、同じ種類のタンパク質が入っているのです。小学校によっては、卵や牛乳のアレルギーより多い状況になってきており、現場でも対応が必要です。
 こういった一人一人のアレルギーには、病院から「生活管理指導表」という診断書を受け取って対応することが原則になっています。
 お子さんがどのくらいの重症度をもったアレルギーであるかという具体的な診断と情報が書かれ、その対応レベルに基づいて、皆さんが「除去食」とか「代替食」などの対応をすることになるのです。私たち医師側もできるだけ詳細に書くことを心がけています。

調理場におけるコンタミネーションの防止

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 現在、給食献立でのアレルギー事故を防ぐため各都市では様々な合理化がなされていますが、特に給食センターでアレルギー対応室をつくるのがちょっとした流行になっています。しかし、実際には全体の調理場で下ごしらえをし、最後の完成段階でやっとアレルギー対応食を仕込んで調理するところが多いようです。これでは「対応室の中では別鍋を使っています」「菜箸も変えています」といっても、同じ調理場で作られているのと変わりない。こういった調理場全体の衛生管理は今後必ず考えなくてはいけないと思います。
 さらに誤食事故で一番多いのは、調理の過程も含め「配膳の取り違え」です。2年ほど前には、愛知県で商品納入の際の管理誤りが原因で、小麦アレルギーの小学生と幼稚園児がアナフィラキシーを起こす事件がありました。このように準備段階での少しのミスが大きな事故につながるので、もっと管理を徹底する。コストや手間、人手を増やさなくても良い合理的なやり方があるはずです。
 進んだ地域では徹底した取り組みがなされ、卵や牛乳に関してはかなり安定した対応ができるようになってきています。次はマイナーな魚や大豆、果物アレルギーなどの対応が課題になってくるでしょう。ただ、やればやるほど除去食の細かい要望が増えて情報が混乱する悩みも出てきます。病院がきちんとした診断をし、アレルギーに対する誤解を減らしていかないといけません。給食全体の安全管理を高めるため、次に求められることではないかと考えています。

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