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講師 油谷 浩之 さま 講師 油谷 浩之 さま(特定非営利活動法人 日本トレーニング指導者協会  理事) 「成長に応じた運動指導と食事について」

関西学院大学文学部教育学科卒業。大阪体育大学大学院スポーツ科学研究科前期課程修了(スポーツ科学修士)。
中学から10年間、関西学院アメリカンフットボール部に在籍し、大学時代はキャプテンとして活躍。トライアスロン等、様々なスポーツにチャレンジした自らの運動経験を活かし、食事管理からトレーニングプログラムまでを考案する、トレーニング指導者として活動を始める。現在は任意団体スマートストレングスを主宰。過去に、松下電工(現パナソニック)アメリカンフットボール部ストレングスコーチ、松下電器(現パナソニック)企業3部(バレーボール・バスケットボール・野球)トレーナーや、神戸製鋼所ラグビー部のストレングスディレクター等をつとめる。現在、関西学院大学アメリカンフットボール部ストレングスコーチ、久光製薬女子バレーボール部ストレングストレーナーに従事している。また、プロ野球やJリーガー選手等のストレングスコーチとしてトレーニング指導にあたるほか、子どもたちの運動能力の向上から中高年の方々の健康づくりまで、幅広く指導を行っている。
共著:「スポーツトレーニングの常識を疑え!」ベースボールマガジン社、「JATI認定トレーニング指導者テキスト」大修館書店

どの時期にどういう能力が成長するか

特別講演

 子どもの発育や高齢者の認知症予防に運動がよい、といわれて久しいですが、今回は私が携わってきた運動指導の現場で「最近はこういう考え方にシフトしてきた」という話をしたいと思います。
 競技スポーツの世界では、体の部分を栄養や運動からアプローチしてパフォーマンスを上げていきますが、最近では遺伝子を調べるといろんなことがわかるようになりました。選手の口の粘膜を少しとって研究機関に送って調べれば「糖質を摂らないでダイエットした方がいい」「脂質にリスクを抱えている」「瞬発系の動きが優れている」などが分かるんです。なぜ遺伝子を調べるかというと「遺伝3割、環境7割」と言われていて、子どもでも大人でも高齢者でも、3割の遺伝的要因に最も適した環境を与えることがパフォーマンスの向上に効果があると分かってきたからです。
 では、いい環境をどう与えるのか。子どもたちに置き換えて話をしますと、どの時期にどういう能力が成長し、発達の伸びがあるか判断して、それに合わせてやりましょうということになります。「筋力トレーニングを小学生にどの段階からやらせたらいいですか?」と、聞いてくる人はさすがにいません。なぜなら神経系のレベルが発達する小学生の時期にやっても伸びないから。プレ・ゴールデンエイジといわれる低学年の5〜8歳、さらに9〜12歳で身体の神経系が一気に発達していくなかで、複数の動きを統合するコオーディネーション能力も養われていきます。それゆえ5〜11歳の時期でまず重視すべきは、動作の習得です。

動作の習得では多様性が大事

特別講演

 特定のスポーツだけをしていると、一定の能力は研ぎ澄まされますが、ある一面は脆弱な状態になります。このような弊害を避けるためにも、できれば複数のスポーツをお子さんにさせるよう親御さん方に指導しています。たとえば、大きいボールで野球をやったり、形の変わったラグビーボールでサッカーをやってみる。サッカーや野球の能力向上を近道ではなく、最終ゴールで考えるわけです。ずっと一つのことだけやる「特化型」の人は対応力、適応力が低く、結果もよくないという傾向があります。それだけ動作の習得においては、多様性が大事なのです。
 神経回路が発達する10歳の時期に何が重要かというと、一つは姿勢。その変化に伴う「バランス」能力を要求される運動です。二つめは走ったり、歩いたり、四つん這いになるなど「移動」を伴う運動。もう一つはボールを投げる、とる、棒を振るなど、道具を「操作」する運動。この3つを組み合わせたゲーム性のある体操や運動で指導します。こうして基本動作を身につけておくと将来、野球やサッカー、テニスなどのスポーツでスランプに陥った時、抜け出るのも早いです。多様的に運動を学習しているので何かでつまづいても「これがだめなら、このやり方も、あのやり方もある」と幅広く対応できるので、学習能力の向上も期待できると思います。

身体の成熟度を基準にトレーニング

特別講演

 幼児期から成長期にかけて、どんなトレーニングをどの時期にやったらいいか。その基準を年齢ではなく、身体の成熟度で区分して研究している人がいます。身長の伸びにスパートがかかる時期を「フェーズ1」とし、次に一番伸びたピーク時期までを「フェーズ2」、ピークからある程度、身長が止まり始める時期を「フェーズ3」、そして身長が伸びなくなった時期を「フェーズ4」と分けて、それぞれでふさわしいトレーニングを実施すべきだと提唱しています。
 この4つのフェーズのどこで、どういう体力要素を鍛えていくか。力強さや筋肉トレーニングをどこでやるか。以前は「子どもに筋肉トレーニングはやめておいた方がいい」といわれていましたが、その後いろんな研究を積み重ねて「子どもにも効果がある」と分かってきました。低学年のプレ・ゴールデンエイジに関しては「姿勢」が大事で、高学年になると回数で負荷をかけていく。中学になると少しフリーウェイト、バーベルとかダンベルを軽いところから持久力にフォーカスして、トレーニングを進めていきます。高校1年になると、ほぼピークを迎える子が多数なのでフリーウェイトで基本種目のスクワット、ベンチプレッサーなどを行います。
 一方「スピード」のトレーニングは「フェーズ1」の段階、あるいは身長があまり伸びていない時期からやり始めても有効です。身のこなしに関係する「アジリティ、敏捷性」については、動作を多様的に学習することで伸ばすことができます。身長がピークを迎える前から始め、徐々に切り返しのドリルをやらせます。

「酵素」「腸内環境」「脂肪」の重要性

特別講演

 成長期にある運動選手はたくさん食べないといけません。発酵食品を日本人が食べなくなったといわれますが、その分、ジャンクフードを食べるようになった。ジャンクフードを食べると体内酵素の働きを消化酵素にとられてしまいます。そうなると代謝まで回らないのでへんな太り方をします。そこで、できるだけキムチや味噌などの発酵食品を食べるようにと、スポーツ選手には指導しています。さらには腸内環境を整えること。「腸は第二の脳」ではなく、ある先生は「脳は腸の出先機関だ」と言います。自分の菌を守り、きれいにすることが大事です。
 もう一つ重要なのが「脂肪」です。魚の油に含まれるオメガ3脂肪酸。これに対して日常的によく使われる植物油の大半がオメガ6脂肪酸です。それらの理想的な摂取量は1対4の割合と言われていますが、欧米食になってそのバランスが崩れると、アレルギーや炎症を促進したり、血液がおかしくなります。オメガ3脂肪酸のうちEPAが注目されていますが、WHOも「EPAはプロテインよりいい」と言っています。以前の日本人は生で魚を食う民族でしたから必要ありませんでしたが、最近は欧米食になってオメガ3を含むサプリメントを飲まないといけなくなりました。
 最後にまとめとして言いますと、トレーニングや運動、食事にしても個別であるべきで、十把一絡げで提供するのはよくありません。特定のプログラムにすべての人間が合わせていくのは、トレーニングの原理原則とは違います。特に成長期の子どもたちは、みんな顔や性格も違うように人それぞれ違う。そのことをお伝えして終わりたいと思います。

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