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講師 安井 孝 氏 講師 安井 孝 氏(今治市 産業部長) 「地産地消を通じたまちづくり」

1959年愛媛県今治市に生まれる。神戸大学農学部卒業。今治市役所に入庁。2004年農林振興課地産地消推進室長。地産地消運動、旬産旬食、学校給食の充実、食育、有機農業の振興などに取り組む。今治市企画振興部企画課政策研究室長を経て、現在、今治市産業部長。地産地消の学校給食から始まり、有機農業や食育を柱としたまちづくりで全国の注目を集める今治市。約30年にわたる政策の全容を紹介した「地産地消と学校給食―有機農業と食育のまちづくり」の著者

さまざまな立場、方面に好影響をもたらす地産地消

特別講演

 「地産地消」は、学問上も法律上も定義はありません。今治市では、「今治で生産された農林水産物を今治で食べること」としています。ただ、今治のものなら何でもよいということではなく、地元の安全で新鮮な農林水産物であること。おいしければ、なおよいという定義にしています。単に生産や消費といった経済活動ではなく、高度成長時代に失った地域文化や伝統を見つめ直して地域が自立するための運動ととらえているのです。今治市では、こうした考え方のもと30年間、半径16キロ程の範囲を地産地消と捉えて運動を行った結果、少しずつその意義が見えてきたところです。
 市の農政面では、地域農業の振興や有休農地の解消、「生産者」、つくり手の農家からみますと、販売が促進され所得が上がります。しかも、消費者から「おいしい」といってもらえるため、生きがいにつながります。一方で、「食べる側」、消費者側からすれば、農家の顔が見えるので安心。農薬化学肥料をできるだけ使わないように努めているため、健康によいことも分かります。「環境面」では、環境負荷の軽減や輸送に伴う二酸化炭素、窒素酸化物の削減にもつながります。「エネルギー面」では、露地が主体のため、ハウス栽培に比べて1/8から1/30の省エネにもなります。「鮮度」については、近くでとれたものを食べるため輸送距離も短くなり、当然新鮮。「経済面」では、ローカルマーケットが生まれるなど経済の地域循環が生まれます。最後に「食育面」ですが、地産地消の食材は食育を行う際、大きなパワーのもとになると考えています。

学校給食で使用する食材はできる限り地元で供給

特別講演

 今治市では、1983年から学校給食に今治産を取り入れ地産地消の運動がスタートしました。5年後の1988年には市議会の議員が発議し、全会一致で「食料の安全性と安定供給体制を確立する都市宣言」を採択。農薬や化学肥料をできるだけ使わない技術を確立し、市民がそれを食べて健康になろうという内容の都市宣言です。2005年1月には12市町村の新設合併がありましたが、議会で再び議員発議が実施され、全会一致で同じ都市宣言が採択されました。
 その後、都市宣言の実効性を担保するために「今治市食と農のまちづくり条例」が制定され、遺伝子組み換え作物の生産の禁止や有機農業、農産物の拡大などが盛込まれました。子どもたちに今治の一番よいものを食べてもらい、大きくなった時には、地域の農林水産業を支えてもらいたいとの期待が込められています。
 学校給食から始まった地産地消ですが、今治産の食材を優先的に使用し、なければ今治市に一番近い場所のもので、有機の野菜や特別栽培野菜を優先的に使ってもらうように学校に要請。米は1999年4月から100%、今治産の特別栽培米に切り換えました。特別栽培とは、都道府県が県ごとに決めた標準的な米のつくり方に比べて農薬、化学肥料が半分以下に抑える生産方法です。そして、パンは2001年9月、豆腐は2002年1月から地元産小麦や大豆に切り替わっています。現在、調味料についても、可能な材料から今治産への切り換えを継続しています。

有機食材、地元産食材使用の波は学校から地域へ

特別講演

 学校給食の現場では、できる限りの努力で食材を集め、調理する栄養士や調理員の方々への感謝の気持ちを「ご馳走さま」とあわせて教えています。今治市には現在、23の学校給食調理場があり15,000食がつくられています。すべてに栄養士を配置し、独自の献立が組まれています。今治市では毎日、それぞれ23通りのメニューが学校給食に出ており、栄養士が食育授業を実施し子どもたちに献立の説明をしております。
 また、今治市では有機農産物を学校給食で積極的に使用しています。まず、安全で良質な地元の有機農産物を子どもたちに食べてもらうといったことを行っています。そうした素材の味を知ってもらうと、今度は子どもたちが農家に興味をもつようになります。立花小学校という小学校では、子どもたちが自主研究でつくった有機農家探検隊マップを作成。校区内の給食の生産農家を訪れてインタビューし、写真を撮って地図に落として全校の仲間に配布しました。
 地産地消は、地元の経済も活性化させます。私たちは「地産地消によるローカルマーケットの創出」と呼んでいます。今治の学校給食がメディアで取り上げられてから、町の商店街のおかみさん会も、「私たちも給食をやりたい」と言い出しました。現在では商店街の大きなイベントに成長し大行列ができます。すると、スーパーでも今治産のコーナーを設置するようになり、売れる商品となっています。スーパーの次は居酒屋、レストラン、ホテルと地産地消は広がり、小学校と同じ取り組みを実施する幼稚園も見られるようになりました。

長年の取り組みを地域の「食育」に生かしたい

特別講演

 地産地消に取り組み20年経った2003年、今治市内に住む26歳全員にアンケートをとりました。「あなたが食材を購入する時に最も大事にしていることはなんですか?」という質問内容ですが、立花地区で有機主体の給食を食べたAグループ、それ以外の今治の給食を食べたBグループ、子どもの時に今治にいなかったCグループに分けて実施。その結果、「産地や生産者を大切にしている」「食品添加物」「賞味期限」「なるべく地元産を買う」「環境によい」などの各項目でA、BがCより、より意識が高いことが実証されました。10年後の2013年にも、同じく26歳の方に同様のアンケートを実施したところ、「なるべく地元産を食べる」項目の数字が、今治の方はもちろん、それ以外の地域の方も上昇しており、長年行ってきた食育の効果が出ていると実感することになりました。
 ただ、私たちの最終目標は、給食での知識、経験、ノウハウを一般家庭に生かしてもらうことです。今治市の「食と農のまちづくり条例」では、「生涯食育」と「義務食育」に分け、小中学校では義務食育で食育の授業に取り組んできました。独自の食育プログラムを作成し食育の授業を積極的に取り入れたりした結果、アンケートでも「産地表示を見て買い物をする」「家族に健康な食事のアドバイスができる」などと答える子どもたちが増えています。食育する力をもった食材とは、地元の旬の食材、力のある献立とは和食、郷土料理です。地元の子どもたちに食育で力を養ってもらい、その力を、今度は地域にぶつけて還元していくのが私たちの食育です。

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