母子保健の国民運動である「健やか親子21(第2次)」は、関係者や関係機関・団体が一体となって「すべての子どもが健やかに育つ社会」の実現を目指しています。齋藤先生からは、「健やか親子21(第2次)」の取組とともに、第3次食育推進基本計画や保育所保育指針等の概要及び保育所における食育の取組事例などについてご紹介いただきました。 |
私は、厚生労働省子ども家庭局に在籍していますが、母子保健は妊娠・出産から生まれて小学校に入る前の未就学のところまでを担当しています。今、母子保健の中でどういうことが行なわれているかをお話する前に、これまで母子保健行政としてやってきた歴史を見ていただくと、どれだけ状況が改善してきたかを含めてご理解いただけるかと思います。
1930年代は、今では考えられない高い乳児死亡率、妊産婦死亡、早産、死産が高い割合でありました。さまざまな制度をつくり、取組をした結果、乳児死亡率、妊産婦の死亡率が改善してきました。女性の社会進出等、環境が変わってきた中で2000年から「健やか親子21(第一次)」の取組を行なってきていますが、最近では、児童虐待や子ども・家庭をめぐる問題が多様化・複雑化する中で新たな子ども家庭福祉を構築することが、大きな課題となっています。
加えて、少子化の現状は合計特殊出生率が平成17年を底として若干持ち直しの傾向は見られますが、いったりきたりの状況にあります。平均初婚年齢や出産年齢の推移は、妻の初婚年齢と平均出生時の年齢の晩婚化に伴い、子どもを産む母親の年齢も上昇傾向にある現状があります。結婚した夫婦に生まれてくる子ども数も年々減っていき、1.94の状況です。こうした中で結婚や出産を取り巻く状況、子育ての負担化、孤立化傾向の増加もデータから読み取れます。
関係者が一体となって推進している、母子保健の国民運動計画「健やか親子21の取り組み」は、第一次は2001年〜2014年までの実施で、第二次が2015年から2024年度まで行われる予定になっています。この取組の最終的な目標は、「すべての子どもたちが健やかに育つ社会を実現しよう」ということ。住民や親子を主体として関係機関、団体と連携しながら実際にそうした方たちの状況がどうなっているかをきちんとモニタリングをしながら、その実現に向けて取組を行っています。
母子保健サービスが受けられて生命が守られ、地域間での健康格差の解消、疾患や障害、経済状態など個人や家庭の違いの多様性を認識した母子保健サービスが全国どこでもちんと展開される。そうしたことが重要であると認識しながら進めていこうということで、「基盤課題A、B、C、重点課題1、2」の5つの大きな課題の枠組みをつくり、数値目標を定めて進められています。そうした取組は、関係の学会、団体の人たちに入っていただいている「健やか親子21」推進協議会を中心に実施されています。例えば妊産婦を支援する学会、食育に取り組む団体、多くの団体が協議会に入り、それぞれが得意な分野での取組を行なっていただいています。大阪ガスも、応援メンバーのひとつです。
これまで、2018年度に「妊産婦の食育」を重点テーマに母子の適切な食生活を考える啓発活動をはじめ、「低出生体重児」「妊産婦の食行動に対する認知及び実践状況」、「学童期・思春期の保健対策に関する取組」などをテーマに啓発推進活動をすすめてきました。「マタニティマーク」の策定・普及活動も、具体的な取り組みの一つです。そのほかにも、人気アニメキャラクター「鷹の爪団」とコラボレーションしたりなど、母子保健分野の課題に対する幅広い周知活動を行っています。
食育に関しては、食育基本法に基づいて基本計画が定められています。その中で、食育についても「健やか親子21(第二次)」が大きな施策として動いています。具体的には、普及啓発やガイドライン策定などを実施していますが、ガイドラインに関しては「授乳離乳支援ガイドライン」「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」の改定作業をしているところです。さらに栄養管理者向けには、基本となる「食事摂取基準」の改定が5年に一回行われますが、現在改定中で2020年版が出版される予定となっています。
現行の食育に関しては現在、農林水産省がとりまとめ部局となっています。その農水省は「自給率の向上」「農産品の消費拡大」、文部科学省は「学校教育を通じた望ましい食習慣の形成」、厚生労働省は「地域保健活動等を通じた生活習慣病の予防」をベースに、各省庁が食育の推進を行っています。相互に密接に連携、協働しながら活動するため、「若い世代を中心とした食育の推進をしよう」「多様な暮らしに対応した食育の推進について」「健康寿命につながる食育の推進」「食の循環や環境を意識した食育の推進」「食文化の検証に向けた食育の推進」の5つの課題を柱に、「第三次計画」が進んでいるところです。
このように、「健やか親子21」の第一次では「食育を知ってもらうこと」、第二次は「実践をしてもらうこと」で活動してきましたが、第三次は「実践の輪を広げていこう」ということをもとに今、まさに関係省庁が連携した取組が行われているところです。
最近、「こども食堂」が展開されています。「こども食堂」の取組が地域の中で広がっていくことが大切だと、「こども食堂」と地域が連携して進める活動の事例集も昨年度に取りまとめましたが、子どもの食の現状の調査も行っています。10年に一度実施される「乳幼児栄養調査」の平成27年度調査では、「子ども主要食物の摂取状況」のほか、「睡眠時間の把握」「運動や身体活動の状況」「アレルギーの状況」「社会経済的な要因によって食べるものがどう変わるか」といった項目を加えて調査を行いました。
その中では、日本は親子ともども睡眠時間が短いことや、朝ごはんを食べないなど保護者の食習慣に子どもが強く影響を受けていること、経済的なゆとりの多い家庭ほど栄養バランスのよい食事をとり、ゆとりのない家庭はインスタント食品など偏った食生活を送っていることがデータにより裏付けされました。
こうした改善を図るためには、国、行政だけが啓発活動を行うだけでは解決できません。みなさま方にも、できることから積極的に参加いただき、ぜひ国民運動として盛り上げながら、子どもたちがおかれている環境改善のためにご参画いただきたいと思います。