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講師 藤本 勇二 氏

主体的・対話的で
深い学びを実現する食育の実践

武庫川女子大学教育学部 教育学科 准教授

藤本 勇二 ふじもと ゆうじ 氏

食育において主体的・対話的で深い学びを実現するためには、自分ごとの問題解決をすることが必要です。子どもの関心事を大切にする、活動を通して子どもから引き出す、有能な学び手としての子ども観に立つ、こうしたことを前提に授業をつくることが求められます。今回、執筆いただいた食育BOOKは、子どもたちが自分ごとの学びを実現するためのヒントがたくさん盛り込まれています。その活用の実際を紹介いただきます。

子どもたちが新しいことを創造できる「資質・能力」を育む

講演Ⅱ

  「スマート農業」をご存知でしょうか。一例として、牛の咀嚼の数や体温、食事をした回数、歩数といった情報がすべて、スマートフォンに集められるというものです。初期投資に課題がありますが、清久さんのお話につながる大事なことがあります。AIに我々の仕事が奪われると怯えるのではなく、今ない幸せをAIがつくってくれると考える子どもたちを育てること。それが「資質・能力」を育てるということであり、それは「食育」でも同じです。電子マップ上に連動して音声で道案内するサービスが提供されていますが、AIが私たちの暮らしを幸せにしてくれるのです。私たちには、そういう資質・能力を子どもたちがつくっていけるように育てることが求められているのです。
  平成になってなくなった仕事にタイピストなどがあります。逆に、パソコンの環境をつくったり、整備したり、補修したりする仕事や学校のカウンセラーが職業として認知されたのは平成になってから。カウンセラーなどはAIで対応できない仕事だと言われています。ただ、今の中学生が大人になる時には、今ない職業につく可能性が大きいということを、私たちは覚悟しないといけません。小学生のなりたい職業のナンバーワンに「ユーチューバー」が上がってきましたが、それもあと5年の寿命でしょう。子どもたちが、新しいことをつくっていける「資質・能力」を育む。それが、「生きる力」を発揮するということです。
  私は小学校の教育支援をしていますが、子どもにとっての「必要感」「関心事」を大事にしないといけないと考えています。「食育で生きる力を育てる。主体的・対話的な深い学びを育てる」には、子どもの「関心事」を知っておくことが大前提なのです。

食育の推進に「カリキュラムマネジメント」の作成・実施を

講演Ⅱ

  その具体例を、京都府の食育推進校で、研究のために3年間、長岡第七小学校の研修主任の先生といっしょに実施した授業を紹介します。2月の終わり、まだ寒い時期に行った3年生の食育の授業で、「おいしそうな言葉」を児童たちに語ってもらいました。
  例えば、肉まんだと「アツアツ」「具が詰まっている」「ふわっとした」「冬にぴったり」「ホクホクジューシー」、「小腹がすいた時にぴったり」まで、いろいろな言葉が出てきました。プリンについては、普通の硬さと「ふわとろ」のプリンのどちらか好きかをたずねてみたりしました。その時に、大人が具体的な言葉を投げたりすると、子どもたちがそれに引きずられ、子どもの中で「学び」が消えます。そのため、子どもたち同士で対話をしてもらいます。この「対話」が行われることが大事で、それが「主体的・対話的」ということなのです。こうしたことを体験した子どもたちが、AIにはない「資質・能力」を育てるはずなのです。さらに、学年が上がると給食体験が蓄積されるので、さらに言葉の引き出しが増えます。言葉は体験が豊かになれば、さらに研ぎ澄まされていくのではないかなと実感しました。
  学校教育の中で、「食育」が、さらに広がることが大事だということです。ただ、文部科学省が提唱している「食」に関する「カリキュラムマネジメント」のポイントとしては、まだまだ実践の積み上げが少ないのが現状です。私が執筆した「食育BOOK」をヒントに、ぜひ「カリキュラムマネジメント」をつくっていただきたいと思います。これは、水先案内人としての意味もありますので、「カリキュラムマネジメント」を作成するだけでなく、さらにそれを活用して実現していただくことに大きな意味があると思っています。

これからの学校教育は外の世界との関連を深めていくべき

講演Ⅱ

  この中に、「ろすのん」を知っておられる方は何名いらっしゃいますか? 「食育ブック」でも取り上げましたが、「ノー・フードロス・プロジェクト」という話で紹介した教科書にも載っている赤い鼻の男の子のお話です。
  今、「食品ロス」は大きな問題となっています。昭和で育った方々は覚えおられるかと思いますが、人気テレビ番組で紹介した食品がスーパーの棚から消えてなくなるようなことが起こりました。「フードファシズム」と呼ぶそうですが、影響力が大きい人の一言で、何も考えずに皆が一斉に動いてしまう。これは、教育に携わるものが一番避けないといけないことですね。「考えること」を大事にし、考えるためにさまざまな体験の場や、さまざまな学びを子どもに提供して最終的に自分は何を選ぶかを決めていく。それが「資質・能力」を伸ばす教育です。
  「関連性」も大事です。私が関わった食品メーカーで、ペットボトルのお茶が増える一方の中、茶殻の産業廃棄物をどうにかしないといけないと研究所の人たちが立ち上がりました。「ろすのんが泣いている」ということで授業にもとり上げましたが、廃棄物を消臭剤に転化したのです。これは、教育的に意味があります。廃棄物を有価物として「生かす」ということは、「知恵」「技」「資質・能力」のひとつだと思うからです。学校は、もっと地域だけではなく企業や団体など、学校の外とつながるべきです。子どもたちの幸せを願い、皆で一緒に行動していくことが必要ではないかと思っています。
  基本的に、子どもたちは本来有能です。自分たちが食している食品が、いろいろなところでつながっていることを知ると、その有能性をますます発揮するようになります。私たち大人が提供する「食」について、生産者の方々などが何を願っているかを考えて教えないと、「食育」はうまくいかないのではないでしょうか。

地域文化理解に役立つ食育で子どもたちの意識を豊かに

講演Ⅱ

  昨年、残念ながら沖縄の首里城が燃えました。その翌日に、現地の小学校で授業をさせてもらいました。うるま市具志川小学校5年生に栄養教務の研修会で授業をしてきたのですが、首里城の焼失に、泣きながら登校してきた女子生徒もいたようです。そんな沖縄の子どもたちに、私がどこからやってきたのかを質問することから授業を始めました。ヒントに切手の姫路城の絵柄を見せましたが、どこにあるのか答えられませんでした。そこから、「ふるさと切手シリーズに沖縄は何が載っている?」と授業を進めていったのです。その中で、「和食と年中行事を採り上げた切手」について説明し思いつく料理を言ってもらったところ、「中身汁」「ヒラヤチー」など、沖縄独特の料理を子どもたちに教えてもらいました。私たちは食育を通して、こうした地域に根ざした文化にこそ目を向けることが大事だと思っています。
  この「和食の切手シリーズ」には「和菓子」もありますが、現職のゼミ生がこのシリーズを利用した食育の授業を行いました。若手の栄養士の方が協力してくれ、彼女が授業を行うと、子どもたちはどんどん吸収します。こうした事例を見聞きすると、専門家が自分の熱意をもって子どもたちに語るならば、子どもたちは豊かになるんだということを実感します。
  英語の「Understand(理解する)」の語源は「下に立つこと」。つまり、「相手を尊敬し、相手から学びとろうとする謙虚な精神があって、本当の理解が生まれる」ということです。私たちは「食育」で、そうした立ち位置で子どもに関わっていきたいと思います。

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